直筆の希少価値が高まっている。
情報通信網が発達した現代では電子入力が主流と化した。
パソコンのキーボード入力然り、スマホのフリック入力然り。
手軽で高速で修正しやすいという利便性から人々は電子入力へと遷移した。
1日の中で直筆する時間は10年前と比較すると格段に減少した。
直筆する機会と目にする機会が圧倒的に少なくなっている。
では直筆の利点とは何か。
それは書いた人間の心髄が書体に顕れて生動することだ。
電子入力は誰が入力しても同じ字体になる。教科書的で量産型の書体として画一的に落とし込まれる。
だが直筆ではそうはならない。書き手の字体はその人特有の情調表現である。
筆跡は他者とは似て非なるものだ。
書き手の癖・心情・気勢が書体として滲み出る。
読み手はその筆跡を見ることで書き手の独特な人間情調を感じ取るのだ。
直筆では筆跡自体で藝術表現ができる。逆に電子入力ではそれができない。
藝術とは生動術だ。
そこに生命が吹き込まれ自ら呼吸し躍動する様態。
観る者の心髄を焚き付ける焔。
直筆ではそれが字体に宿る。
想念を秘めて直筆すれば書体が自ずと生気を成す。
人は息吹く生命に興趣が惹かれて感情が湧き立つ。
逆に呼吸が見られない無生命には心が全く沸き立たない。
自筆は生誕術であり躍動術だ。己の筆跡に生命の呼吸が宿る。
文字の着け・止め・跳ね・払い、書体の調和に生気が息吹く。
直筆は藝術表現だ。
想いを込めて筆を走らせ、書いた文字群が思念体と化す。
手書きは己の胸懐を伝播させる文筆手段として至高だ。
その希少性は年々高まっている。
直筆の使い手が減少すればするほどその価値が煌めきを増して赫燿(かくやく)する。
電子化全盛の時代だからこそ、手書きの情緒は味わいを魅せる。
今こそ筆を揮う時なのだ。
私は筆動の波に乗って己の心髄を顕す。
