【題名】冷線

掌編創作

何故そんな目をする。

私が君に何をしたというのだ。

そもそも私は君のことなど知らない。

君も私のことなど知らない。

なのに何故そんな目つきをする。

その視線は私に硫酸を浴びせている。

そもそも君にそんな資格があるのか。

それが許されるほど君は立派なのか。

いいや違う。

偶然君に順番が回っていないだけだ。

今まで運良くそういうカードを引かずに済んでいただけだ。

いずれ君も引くのだ。

否応なく引かされる。

君も冷線を向けられる側に回る。

深淵の井戸に突き落とされる。

そして出口を塞がれる。

その時君は何を思うだろう。

一体何を感じるだろう。

何故こんな事象が起きたのか。

理解に苦しむだろう。

脱出しようと足掻くだろう。

だが一縷の望みも見えてこない。

己の存在意味が消失していく。

人々は冷線を注いでくる。

平気で硫酸を浴びせてくる。

己の視界に映る全てが敵に見えてくる。

徐々に着実に味わうだろう。

だが心配無用だ。

君には私がいる。

私には君がいる。

我々は痛みを共有できる。

痛みは高次財産だ。

実際に体感した者でしか分かち得ない。

想像は体感に遠く及ばぬ。

痛みという代償を払って我々は指を掠めたのだ。

人間という生物の実態に。