【題名】寿命タイマー

創作

ここは寿命が可視化された世界。

視界左上に電光数字が表示されている。

寿命タイマーだ。

その数値は現在進行形で減少していく。

思わずハッとする。

「今この瞬間を幸せに生きなきゃ」

この世界で私たちが感じること。

「時間=命」

寿命タイマーによって世界は一変した。

「自分にとっての幸せって何だろう?」

皆がそれを考えるようになった。

常識が変わった。

空気が変わった。

他者との付き合い方が変わった。

自分との付き合い方が変わった。

命の使い方が変わった。

昔の人々は言った。

「時間は皆に平等だ」

それは違う。

寿命の初期数値は人それぞれ違う。

減少速度も違う。

私たちは気づいている。

平等などこの世界に存在しないことに。

最初から最後まで不平等。

あとは自分の生き方に委ねられている。

「時間は貴重な消費物」

寿命タイマーが出現したことで皆がそれを実感した。

自分の時間を大切にする人が急増した。

自分にとって幸福感が得られる活動に没頭するようになった。

自分にとっての正解を模索するようになった。

昔と比べてお金の価値は低下した。

お金はアイテムの1つに過ぎない。

昔の人々はお金が第一だった。

お金を獲得するためならストレスフルな義務仕事の奴隷になることを厭わない。

自分にとって不幸な作業であってもお金のためなら我慢する。

せっかくお金を得ても時間に投資せずに貯金してしまう。

寿命を死に時間としてただ消費していく。

今を幸せに生き続けることの優先度が低い。

私たちにはそう映る。

お金が増えれば選択肢は増える。

確かにそれは真実だ。

多いに越したことはない。

だがお金を追い求めるあまり幸福感が犠牲になっているなら本末転倒だ。

お金は手段だ。

目的ではない。

人生の目的にはならない。

お金は活動の副産物だ。

幸せな時間を生き続ける。

その活動の延長線上に生まれるものだ。

時間を犠牲にして得るものではない。

不幸な時間を生き続けることは只の寿命の喪失に過ぎない。

今この瞬間を活き続けること。

それが人生の目的だ。

時間>>お金

私たちの世界の社会通念だ。

それが当たり前になっている。

私たちは昔の人々と比べて自分の感情に素直に生きている。

己の寿命がリアルタイムで減っていっている様子を目の当たりにしているから。

つまらない事象に対して時間を使いたくない。

感情が高ぶる楽しい体験に時間を使いたい。

刺激的な体験は充実感を生み出す。

時間とは体験だ。

良い体験をするためならお金は惜しみなく使う。

お金は現世通貨だ。

消費期限付き道具だ。

死を迎えれば使用不可能となる。

ただ持っているだけでは意味がない。

大事にとっておくものではない。

使ってこそ意味がある。

お金は後からいくらでも再入手できる。

だが時間は二度と取り戻せない。

肉体生物としての寿命はひたすらに削られていく。

タイマーが0になった瞬間、私たちは現世から消失する。

活動が強制終了する。

だから「今この瞬間」の価値は重い。

寿命タイマーによって皆がそれに気付いた。

このデバイスは人間を絶望感に苛ませるものではない。

誰もが迎える「死」という現象の存在を眼前に表出させているだけだ。

死は強制終了だ。

死があるからこそ生が定義される。

死があるからこそ生に価値が生まれる。

死があるからこそ生の使い方を考えるようになる。

死ぬまでの残り時間をどう活用するか。

自分が求める幸せとは何なのか。

自分はどんな活動なら幸福感に浸れるのか。

今この瞬間に死を迎えたとして自分は本当に幸せだったと言えるのか。

そこに後悔はないか。

寿命タイマーは希望だ。

人生の目覚まし時計だ。

自分なりに幸せな時間を生き続けこと。

その大切さに気づかせてくれるのだ。